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事件は無事に解決したわけだけど、後日談ってやつがいくつかあるんだ。最後にもうしばらく付き合ってくれ。
サヤに外傷はなかったが、保護されたあと念のために病院に入院した。検査の結果、幸いどこにも異常は見つからず、二日後には退院した。 しかし体はなんともなくても、PTSDとかいって、精神的な後遺症には今後も気をつけなければならないそうだ。 専門的なことはわからないが、オレはサヤの明らかな後遺症に気づいた。ようやく取り戻した笑顔を、サヤは事件の後、再びなくしてしまっていたのだ。 オレのことはどうでもいいんだけど、一応話しておくぜ。 ガラス窓を蹴やぶったときに破片で足のあちこちを切っちまって、合計で十二針ほど縫うはめになった。ほんのかすり傷だ。 治療が済むと、警察署に連れていかれて、たっぷりと事情聴取された。 オレが探偵だとわかるとやつらは態度をガラリと一変させた。警察は探偵をトラブルに群がるハイエナみたいなものだと見下しているのだ。 事情聴取が済むと、警察の到着を待たず、危険を冒して単独で乗り込んだことを延々と責め立てられた。オレはお前ら警察が無能なせいじゃねーかと言ってやりたかった。 最後に取ってつけたように感謝状を授与すると言ってきたが、丁重にお断りした。別に警察に感謝されたくてサヤを助けたわけじゃない。 キツネ目は今回が初犯ではなかった。関西で十代のときと二十代のときに一度ずつ幼女に対する性犯罪で逮捕歴があるそうだ。やつは根っからのロリコンで性犯罪者だったわけだ。 やつの今回の罪状は誘拐と殺人未遂。長い間クサイ飯を食うことになるだろう。ブタ箱でやつが更生して真人間になって、まともな恋愛ができる日が来ることを祈るが、難しいだろうな・・・。 ミホさんのことも忘れちゃいけない。 今度の週末は、約束通りミホさんとデートすることになっていた。オイスター・バーっていうカキを食わせる店にミホさんは行きたいらしい。なんでもニューヨークが発祥の地で、日本でも流行りつつあるそうだ。 その席でオレはミホさんに、自分にはレイナという恋人がいるということを正直に告げるつもりだ。ミホさんは素敵な女性で、オレはぶっちゃけ好きになりかけている。ミホさんからの好意も感じる(うぬぼれかな?)。でも、オレとミホさんとでは住む世界が違いすぎるのだ。 オレみたいなアウトローには、レイナみたいなじゃじゃ馬がお似合いなのさ。 事件の数日後、オレはサヤの両親を開店前の「アウトサイダー」に呼び出した。 ひたすら感謝の意を述べる夫妻の前に、オレは数枚の写真を投げ出した。だんなと奥さま、それぞれの浮気現場を激写した写真だ。 夫妻は絶句し、目玉が飛び出しそうなくらい目を丸くした。オレは素知らぬ顔をしてセブンスターに火をつけた。 殺意すら感じさせる目で夫妻は睨みあい、やがて激しいののしりあいをはじめた。 オレはセブンスターを何本も吹かしながら辛抱強く夫妻の話に耳を傾け、必要なときには第三者の公正な意見をぶつけた。 しだいに夫妻は冷静さを取り戻し、後悔や反省や謝罪の言葉を口にするようになった。 三時間に渡る話し合いの結果、夫妻は今の不倫相手と別れて、サヤのために一からやり直すと約束してくれた。 翌日、オレはサヤを花見に誘った。サヤは退院してから学校を休んでずっと家に閉じこもっていたので、両親もたまには外出して気晴らしをしたほうがいいだろうと賛成してくれた。 河川敷の桜は見事に満開の花を咲かせていた。まるでブルーの空のキャンバスに、ピンクのペンキをぶちまけたみたいだ。たくさんの人々が桜の木の下で花見に興じていた。 オレとレイナとサヤの三人もあいている桜の木の根元にレジャーシートを広げて陣取った。 レイナは早起きし、気合を入れて三段重の弁当を作ってきていた。 弁当を食べながらレイナと共にあれこれと話しかけてみたが、サヤは自分の殻に閉じこもってしまってまるで無反応だった。 「サヤ、手を出してみな」 反応がないのでオレはサヤの手を取って掌を広げ、イルカのキーホルダーを乗せた。サヤは以前のようには握らずに、迷っているみたいにキーホルダーを見つめていた。 オレはサヤに言った。 「昨日、サヤのパパとママと話したんだ」 サヤははじめて反応を示した。顔を上げてオレを見た。 「パパとママは、もう仲直りしたってさ」 オレがニッと笑いかけると、サヤは花が咲くようにゆっくりと顔をほころばせ、やがて満開の笑顔を浮かべた。 サヤ、いい笑顔だぜ! 世界一かわいいぜ! くそったれ! 強い風が吹き、オレたちは桜吹雪に包まれた。 サヤの掌の上のイルカが、ピンクの海を泳ぎはじめたように見えた。 走れ! 私立探偵 東京ジョーⅢ 「笑顔をなくした天使」 (完)
by zyoh
| 2005-07-12 23:21
| 笑顔をなくした天使
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