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通学路では連れ去り犯への警戒網が依然として張り続けられていたが、もうまる二週間なにも起きていなかったので、全体的に気が緩んでいるように感じられた。長期戦となり、みんな疲れもあるのだろう。
「サヤ」 今までは「サヤちゃん」と呼んでいたのだが、オレははじめてサヤを呼び捨てした。サヤはビクッと背筋を伸ばした。 「オレの話を聞いてくれ」 サヤは前を向いたままうなずいた。リアクションは小さいが、サヤはこれまでとは違うオレの態度に緊張感をみなぎらせているのがわかった。 オレは自分の生い立ちをサヤに話しはじめた。話したところで、サヤがどう感じるのかわからなかったが、まずはオレという人間の嘘偽らざる姿を知ってもらうことがコミュニケーションの第一歩だと考えたのだ。 サヤは黙々と歩いているだけだが、オレの話に耳を傾けているのがわかった。 週末の間に東京でも桜の開花宣言が出され、並木の桜は三部咲きといったところだった。桜とともに、サヤの笑顔も満開になればいいな、オレはそんなことを考えながら桜の花を見上げた。 オレは躊躇せず、幼稚園のころに両親がヤクザに刺し殺されてしまったことまで話した。 すべてを話し終えた時、今までになかったサヤの反応があった。オレの顔をジッと見上げたのだ。オレは足を止めて桜の木の傍らにしゃがみ、サヤと目線を合わせた。サヤの黒目はオドオドと揺れ動いていたが、それでも視線をそらさずにいてくれた。オレはできる限り優しい表情を浮かべた。 「どうした? サヤ。なにか言いたいことがあるのか?」 「・・・かわいそう」 サヤがしゃべった・・・。街のノイズにかき消されてしまいそうな小さな声だったが、サヤがしゃべったのだ! アルプスの少女ハイジのクララが立った、ぐらいオレは感動した。 やったよミホさん。真剣な想いって、やっぱり伝わるもんなんだな。くそったれ!
by zyoh
| 2005-06-28 00:51
| 笑顔をなくした天使
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