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「やるせない気持ちになります・・・」
ミホさんは消え入りそうな声で言って、残りのカクテルを一口で飲み干した。 オレは黙ってうなずき、セブンスターに火を灯した。とぐろを巻きながらのぼっていく煙は、間接照明でオレンジに染まっていた。 肩になにかが乗る感触があった。いい香りが鼻をくすぐる。ミホさんが頭をオレの肩に乗せ、しなだれかかっていた。 「・・・すみません。・・・ちょっとだけ、こうしていていいですか?」 オレは再び、黙ったままうなずいた。 リュウさんはグラスを磨きながら、見て見ぬふりをしてくれていた。 その時間はほんの一瞬のようにも、永遠のようにも感じた。 その晩、ミホさんを誘えば、一夜を共にできることはわかっていた。でも誘わなかった。オレは狂おしいくらいミホさんが欲しかったが、レイナ、そしてサヤの存在がオレを押しとどめていたのだ。もしそんなことをしたら、レイナはもちろんのこと、サヤをも裏切ることになる。もうこれ以上、サヤを裏切る大人を増やしたくなかった。・・・どうやらオレは、悪い男にはなれないみたいだ。 下北沢の駅までミホさんを送っていった。終電には余裕で間に合う時間だった。 別れ際、ミホさんはそれまでの出来事がすべて幻であったかのような笑顔で手を振った。 オレは改札の前に立ち、ホームへと階段を降りていくミホさんを見送った。いい香りがした髪が視界から消える。オレはひどくせつない気持ちだった。
by zyoh
| 2005-06-21 01:16
| 笑顔をなくした天使
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